バイオミメティクス技術についての歴史は意外と古く現在も更なる研究で分子系・機械系・材料系の3つの分野で技術開発は進み実用化されているのです。
現在では、材料系の分野が中核をなしながら分子系・機械系との研究を統合する総合的なバイオミメティクスがドイツが先行し世界各国で進行しています。
私たちの生活の中にかかせないものであったり、商業利用されているものがバイオミメティクス技術によって実現されているのですがその実用例や可能性についてご紹介したいと思います。
バイオミメティクスとは?
バイオミメティクスとは、地球上の生物や植物が進化の過程で備わった構造であったり優れた機能などを模倣して私たちの生活の中に取り入れていく技術のことで生物模倣技術(せいぶつもほうぎじゅつ)とよばれています。
1950年代後半にバイオミメティクスという言葉が使われるようになり様々な分野でその技術を実用化し利用されるようになってきました。
人間が模倣して生活に生かそうという技術ですから動物や植物の行動や生態などを、じっくりと研究している研究者の方たちが発表した成果をヒントに、日々色々な製品開発をしている人たちもたくさんいるのですね。
何年もかかってやっと開発された技術が実は、ひそかに私たちの生活の中に当たり前のように存在しているわけなのです。
バイオミメティクスの歴史
1950年代後半にバイオミメティクスという言葉が使われるようになった生物模倣技術ですが、歴史は古く発明こそはされなませんでしたが、レオナルド・ダビンチが鳥の飛ぶことを観察することで後にハンググライダーやヘリコプターが設計されたり、トンネルを掘るシールド工法もフナクイ虫が口から分泌される液で後方の壁を固め木に穴をあけ掘り進むことをヒントに18世紀初頭には発明されていたのです。
バイオミメティクスの技術で最も有名なのが野生のゴボウの実からヒントを得てうまれたマジックテープなのです
マジックテープという名称は、クラレが1960年に商標登録をして販売を開始したことからクラレが発明したと思っている方も多いのではないでしょうか?
本来マジックテープは、日本では面ファスナーといい、スイスの発明家であるジョルジュ・デ・メストラルが発明したものなんですね。
メストラルが1941年にアルプスに愛犬といっしょに登山に行った際に、愛犬の身体や自分のジャケットに野生のゴボウの実がたくさんついていることに疑問を感じゴボウの実を顕微鏡で覗いてみると無数の鉤(かぎ)のようになっているトゲが、からみつくことによって愛犬や自分の衣服に付着するのだということに気づいたわけなのです。
ゴボウの実は、この鉤のような無数のトゲによって動物の身体に付着することで遠くまで種を運び繁殖する能力があるのです。
メストラルは、このゴボウの実の構造を研究し2枚の布を密着させワンタッチで外すことができる面ファスナーを発明し1955年に特許を取得するまでにいたりました。
このゴボウの実が繁殖させるための構造を取り入れた技術がバイオミメティクスというわけなのです。
バイオミメティクスの実用例
世界的にみますとドイツが先行してはいるのですが、日本も下記のような技術が実用化され商品や商業利用されている例もあるのです。
日本の代表的なバイオミメティクス技術による実用化事例
出典:特許出願技術動向調査について http://www.meti.go.jp/press/2015/05/20150519001/20150519001.pdf
日産自動車が開発した撥水ウインドウは、蓮の葉の表面撥水構造からヒントを得て商品化されているのですが、蓮の葉の撥水構造の仕組みはロータス加工といい、ヨーグルトの蓋であったりLED信号機の表面シートに利用され雪が滑りおち、信号がみえなくなることを防いでいたりと私たちの生活にとても密着したバイオミメティクス技術なのです。
医療の分野では、株式会社ライトニックが開発した採血針は蚊の針は刺されても痛くなく血管までちゃんと届き、血液を吸い上げるところに着目し開発されています。幅が0.4ミリという細さでかつ蚊の針と同じようなギザギザの先端にすることで痛くない注射針として実用化がなされたのですね。
公共交通機関でいえば、JR西日本が開発した500系新幹線の先端部分はバイオミメティクス技術によるものなのです。流線型のあのデザインは、高速でトンネルに入る瞬間に「ドン」という大きな音がでる「トンネルドン現象」を解消するための形状になっていて、カワセミが水中の餌をとる際に水に飛び込んでも水しぶきが凄く小さいことがヒントになって開発されたのです。
日本は、ドイツなどの欧米諸国と比較すると遅れていると言われていたのですがそれでも代表的なバイオミメティクスの実用例というのがこれだけあるのですね。
バイオミメティクスの可能性
バイオミメティクスの技術開発が世界で先行しているといわれるドイツですが、その背景には産官学が連携できるように国が資金援助を行い2001年には、BIOKONという組織を設立しバイオミメティクス技術の産業展開を促進する国の施策が早くから取組まれているからなのです。
アメリカやフランスにおいても追従する形でバイオミメティクスの可能性について研究開発を推進する国策がとられてきています。
日本については、企業や大学を主体とする研究開発がなされてきて、欧米諸国と比較すると国としての政策がまだまだ遅れをとっている状況にあったわけなおですが、世界がバイオミメティクスの可能性にいち早く取組みを進めているのをうけ政策面で進展する方向に動きつつあるのです!
というのも2013年に日本学術振興会の科学研究費助成制度を使って異分野の研究者・技術者による「生物規範工学」の共同プロジェクトが始動したり、NPO法人としてバイオミメティクス推進協議会が2014年に発足し産業化を促進する動きがようやく日本でもうまれてきたからなのです。
世界規模でのバイオミメティクスの可能性としては、2025年には1兆ドルほどの貢献する経済効果があるということも発表されていて、薬理学などの分野での技術革新が進行しあらゆる分野での期待が高まっているのです。
また、環境問題が世界規模で課題となっている背景がバイオミメティクス技術の研究を一層、加速させるともいわれていて、今後は生物・植物から学ぶことによってイノベーションに繋がるという考えが益々、高まってくると思います。
まとめ
日本ではまだまだ、認知がさほどされていないバイオミメティクス技術ですが、既に私たちの生活の中では様々な実用事例があり貢献してくれているのです。
色々な分野でその可能性を秘めているバイオミメティクスが私たちの暮らしを今後、もっと便利にしてくれることに大きな期待がもてる技術なのですね